都心に客を呼び戻す上海の新形態モール

2014-09-04

去年から上海OL調査を担当した私は、調査対象者の上海のOLたちと一年を通じて定期的に会っています。そうしているうちに、彼女たちの生活の変化、そして上海という街の変化の速さに気付かされます。 

たとえば、お洒落な上海っ子の間では、最近、「K11」というエリアが人気急上昇中です。 

そのK11とは、上海の最先端のファッション街「淮海中路」に昨年オープンしたばかりのラグジュアリーショッピングモールです。営業開始以来客足が途絶えず、今は上海屈指の人気スポットとなっています。中には、わざわざ北京から訪れる人もいるほどです。 

■「品格」重視のライフスタイルが「80後」の憧れ

「K11の何が面白いのでしょう?」そんな質問をすると、お洒落な上海っ子の口から「高大上」「文芸範」などの言葉が出て来ました。「高大上」や「文芸範」は、今、中国の若者の流行語。前者は高級で、堂々としており、上等であること。後者は、文学・芸術を好む人が漂う独特なオーラがあること、

今の中国の消費主力軍といえば、間違いなく「80後(1980年代生まれ)」と「90後(1990年代生まれ)」と呼ばれる世代です。彼らは上質な生活へのこだわりを日に日に強めています。「高大上」と「文芸範」とはまさに「ハイレベルな生活品質や上品・優雅な雰囲気」を意味する流行語です。80後や90後が求めているライフスタイルを象徴する言葉ともいえます。

■相次ぎ閉鎖、百貨店になぜ異変?

中国は大都市ではドーナツ現象がどんどん拡大しています。都心部の不動産価格が高騰したため、若者層の郊外型住宅団地への移住が進んでいます。そのため、ネット通販や郊外型モールが急拡大しています。他方、都心部の従来型の百貨店は同質化が目立ち、場所代や人件費の高騰に苦しめられ、昨年から閉鎖や撤退が増えてきています。昨年から、伊勢丹やイトーヨーカドー、そしてヤマダ電機など、日系の小売業が中国の店舗を閉鎖したことがよく知られていますが、実は、中国でこれまで多数の店舗を展開してきた香港やマレーシアの華人系資本の新世界グループや百盛(パークソン)グループなどが閉鎖した店舗数の方がさらに多いのです。

■アート一体型モールで起死回生!

K11はこのように追い込まれた中で、「新世界グループ」が起こした革命です。新世界グループを率いる香港の鄭氏は、もともと芸術家肌の経営者として知られています。その彼は、今の逆境を乗り越えるために、「アートギャラリー的なショッピングモール」を上海のどまん中に打ち出したのです。前衛的なデザインの外観、アートギャラリーのような内装、そしてデザイン性に富む商品。K11が開店するやいなや、すぐおしゃれな上海っ子の話題を独占しました。そんな折に、映画『小時代』がこのK11をロケ地として選びました。「小時代」は80後と90後世代に絶大な人気をもつ作家、郭敬明(グオ・ジンミン)の監督デビュー作。この映画は高級品やブランド物だらけということで物議を醸しましたが、若者の間では大きな人気を博し、興行成績第1位の映画となりました。そのおかげもあって、K11も一躍有名になったわけです。

■K11に学ぶ成功の秘訣とは

K11の凄さは、中国の消費主力層が求める変化を、いち早く具現化したことです。ロゴの付いたブランド物を身に付けることで優越感を示すかつての中国人と違い、今時の若者は、どこで食事をするか、どんな人と会うか、どんな一日を過ごすかをミニブログやWechat(中国版Line)で知り合いと共有することが好きです。K11で開催されたモネの名画展を巡りながらショッピングを楽しみ、その後にはおいしいコーヒーや食事を楽しむ。このような充実した一日を友人にアピールして優越感に浸りたがるのが今時の中国の若者たちです。

ネット通販や郊外型巨大モールがどんどん増殖し、旧来型の百貨店、家電量販店としてスーパーが苦しんでいるのが、今の中国市場。しかしK11は上海でファッションやアートが融合した最先端のショッピング空間を提供してくれました。それはネット通販や郊外型モールでは体験できない空間であり、これまでの百貨店とは比べられないほどの存在感や個性をもつ空間です。中国はやはり変化のスピードが速い。このスピードについていけないと日本の流通業、ひいては日本の企業は簡単には成功できないのでしょう。 

(上海オフィス/ジェニファーより)

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